親が亡くなり、実家をどうするかという問題が目の前にあるのに、気持ちの整理がつかない、仕事や家庭が忙しくて手が回らない。そうして「何もしないまま」時間だけが過ぎていく、というのはめずらしいことではありません。
ここで気になるのは、「何もしないでいると、実際に何が起きるのか」という点だと思います。結論から言えば、放置してすぐに大きな不利益が生じるわけではありませんが、時間が経つほど選べる選択肢は狭くなっていきます。
この記事の結論
何もしないまま放置すると、相続放棄や相続税申告といった期限のある手続きの機会を逃すおそれがあるほか、相続登記の未了は過料の対象になり、実家の老朽化が進めば特定空家に指定されることもあります。「決めない」こと自体に罰則はありませんが、時間が経つほど選べる選択肢は狭くなっていきます。
この記事で分かること
- 「何もしない」が具体的にどんな状態を指すか
- 期限のある手続きを逃した場合に起こること
- 実家そのものが傷んでいくリスク
- 相続人が増えていくリスク(数次相続)
- 「今は決めない」と「何もしない」の違い
- 何もしないと決めた場合でも、最低限しておきたいこと
「何もしない」は、具体的にどんな状態を指すか
ひとくちに「何もしない」といっても、実際には次のような状態を指していることが多いです。
| 状態 | 内容 |
|---|---|
| 相続人・財産の調査をしていない | 誰が相続人か、実家以外にどんな財産・借金があるか未確認 |
| 遺産分割協議をしていない | 実家を誰が取得するか、相続人間で話し合っていない |
| 相続登記をしていない | 実家の名義が亡くなった方のまま |
| 実家の管理をしていない | 現地に行かず、鍵をかけたまま放置している |
これらは互いに関連しています。相続人・財産の調査をしていなければ遺産分割協議は進められませんし、協議がまとまらなければ相続登記もできません。「何もしない」という状態は、実際にはこの連鎖のどこかで止まっていることがほとんどです。
期限のある手続きを逃すリスク
実家をどうするか(売る・残す・貸す・壊す)という結論自体に法律上の期限はありませんが、その手前にはいくつか期限のある手続きがあります。詳しくは実家を相続した後の期限一覧で解説していますが、ここでは「何もしない」ことでどうなるかという観点で整理します。
相続放棄ができなくなる(3か月)
実家以外に借金などのマイナスの財産がある場合、相続放棄という選択肢があります。ただしこれは、自己のために相続の開始があったことを知った時から原則3か月以内(熟慮期間)に家庭裁判所へ申述する必要がある手続きです。
何もしないまま3か月を過ぎると、原則として単純承認(プラスもマイナスもすべて相続する)をしたものとみなされます。あとから多額の借金が判明しても、原則として相続放棄はできなくなります。財産調査に時間がかかる場合は、期限内に家庭裁判所へ申し立てることで熟慮期間を伸長できるため、判断がつかないまま漫然と放置するのではなく、早めに動くことが重要です。
相続税の申告が必要な場合、加算税・延滞税の対象に(10か月)
相続財産の合計額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、相続税の申告・納付が必要です。
期限を過ぎて申告・納付が遅れると、加算税・延滞税が発生する場合があります。また、空き家の3,000万円特別控除や小規模宅地等の特例など、税額を軽減する特例の中には「期限内に申告すること」が適用の条件になっているものもあります。「税額が0円になるはずだから申告しなくてよい」と自己判断して放置すると、特例が使えなくなることがあるため注意が必要です。
相続登記をしないと、過料の対象になる(3年、義務化)
2024年4月1日から、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務化されました。正当な理由なく期限内に申請しないと、10万円以下の過料の対象になり得ます。2024年4月1日より前に相続が発生していた不動産についても、2027年3月31日までが期限です。
話し合いがまとまらず期限に間に合わない場合は、相続人であることだけを法務局へ知らせる「相続人申告登記」という簡易な手続きで、申請義務を果たすことができます。ただし、この申告だけでは実家を売却することはできません。売却するには、あらためて正式な相続登記が必要です。
実家そのものが傷んでいくリスク
手続きの期限とは別に、実家という建物自体も、人が住まなくなれば時間とともに傷んでいきます。
老朽化と特定空家指定
空き家を放置すると、換気や通水が行われないことで建物の劣化が進みやすくなります。老朽化が進み、倒壊のおそれや衛生上の問題があると自治体に判断された場合、「特定空家等」に指定されることがあります。指定を受けると、まず改善の指導・勧告が行われ、勧告を無視して状態を放置すると、固定資産税の住宅用地特例が解除され、税負担が増えることがあります。それでも改善されない場合、最終的には行政代執行(自治体による強制的な取り壊しと、その費用の請求)に至ることもあります。詳しくは実家の空き家を放置するとどうなるかで解説しています。
固定資産税・管理費は、使っていなくても発生し続ける
「決めていない」状態であっても、固定資産税・都市計画税は毎年発生します。放置期間が長くなるほど、使う予定のない実家に払い続ける費用だけが積み重なっていきます。
相続人が増えていくリスク(数次相続)
遺産分割協議をしないまま相続人の誰かが亡くなると、その方の相続人(配偶者や子)が新たに協議に加わることになります。これを数次相続といい、世代を重ねるほど相続人の人数が増え、関係も疎遠になりやすいため、後になるほど話し合いをまとめるのが難しくなります。実際に相続人が想定より大きく増えてしまったケースは祖父名義のまま父も亡くなったモデルケースで紹介しています。
「今は決めない」と「何もしない」は違う
ここまで見てきたリスクは、いずれも「実家をどうするか、すぐに結論を出さないこと」そのものが問題なのではありません。
- 実家を売る・残す・貸す・壊すという結論を急いで出す必要はありません
- 一方で、相続人・財産の調査や、期限のある手続きの確認は、結論を保留していても並行して進められます
つまり、「実家の活用方針は決めていないが、調査と期限の確認だけは済ませている」状態と、「何も確認していない」状態とでは、リスクの大きさがまったく違います。焦って結論を出す必要はありませんが、確認作業まで先送りにしないことが大切です。
何もしないと決めた場合でも、最低限しておきたいこと
1. 相続人と財産の全体像を確認する
戸籍を集め、法定相続人が誰か、実家以外にどんな財産・借金があるかを確認します。
2. 期限のある手続きに該当するか確認する
相続放棄(3か月)、相続税申告(10か月)に該当しそうか、早めに見極めます。
3. 相続登記の期限を把握しておく
すぐに登記できなくても、期限(3年、または2027年3月31日)をカレンダーに書き出しておきます。
4. 実家の状態を最低限確認する
現地に行けない場合も、近隣への一言や、空き家管理サービスの利用などで、まったく無管理の状態は避けます。
5. 家族間で「今は保留にする」ことを共有する
決めていないこと自体を、相続人全員で認識合わせしておくと、後々の行き違いを防げます。
誰に相談するか
| 内容 | 相談先 |
|---|---|
| 相続人・財産の調査、相続登記 | 司法書士 |
| 相続税がかかるかどうかの判断 | 税理士 |
| 相続放棄の検討 | 家庭裁判所、弁護士 |
| 実家の管理・活用方針 | 不動産会社、空き家管理サービス |
何から着手すればよいか分からない場合は、誰に相談するかもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 実家を売るかどうかを決めていないのですが、それだけでも問題になりますか。 A. 実家の活用方針そのものに法律上の期限はないため、決めていないこと自体は問題ではありません。ただし、相続人・財産の調査や相続登記の期限確認まで放置すると、リスクが積み重なります。
Q. もう3年近く何もしていません。今からでも間に合いますか。 A. 相続登記は期限を過ぎても申請できます(過料の対象にはなり得ます)。相続放棄は原則3か月を過ぎると認められませんが、事情によっては認められる場合もあるため、早めに弁護士へご相談ください。
Q. 何もしないまま、実家を空き家として放置し続けるとどうなりますか。 A. 老朽化が進み、状態によっては特定空家に指定されるリスクがあります。固定資産税の軽減特例が外れ、税負担が増えることもあるため、最低限の管理は続けることをおすすめします。
まとめ・次にすること
- 「実家をどうするか」自体を今すぐ決める必要はない
- ただし、相続人・財産の調査、期限のある手続きの確認は並行して進める
- 相続登記をしないままだと過料の対象になり、空き家を放置すると特定空家指定のリスクがある
- 相続人が増える前(話し合いが単純なうち)に動いたほうが、選べる選択肢は多く残る
次にすることは、相続人と財産の全体像を確認することです。ここが分からないままでは、放棄も申告も登記も判断のしようがありません。
何から手をつけるか整理したい場合は、相続後90日チェックリストもあわせてご活用ください。