「自分だけが実家に通って親の介護をしてきたのに、他の兄弟姉妹と同じ相続分でいいのだろうか」――実家の遺産分割で、こうした思いを抱える方は少なくありません。結論からいうと、介護をしたという事実だけでは、法定相続分が自動的に増えることはありません。ただし、一定の条件を満たせば「寄与分」として取り分に反映させる制度があります。
この記事の結論
介護をしたというだけで、遺産分割協議で当然に多くもらえるわけではありません。相続人自身が介護した場合は「寄与分」(民法904条の2)、子の配偶者など相続人でない親族が介護した場合は「特別寄与料」(民法1050条)という別々の制度があり、いずれも無償性・継続性など一定の要件を満たす必要があります。
この記事で分かること
- 「介護をした分」が当然には反映されない理由
- 寄与分が認められる要件と、実際に認められやすい目安
- 相続人でない親族(子の配偶者など)が使える「特別寄与料」
- 話し合いがまとまらないときの手続き
- 実家の分け方への影響
「介護をした分」は当然には反映されない
法定相続分は、遺言がない限り、民法で定められた割合(配偶者2分の1・子ども全員で2分の1を均等割りなど)が基本です。誰がどれだけ介護をしたか、誰が実家に頻繁に通ったかは、この法定相続分には直接影響しません。
「自分は毎週実家に通って介護していたのに、遠方に住む兄と同じ取り分なのは納得できない」という気持ちは自然なものですが、法律上は、介護の負担を相続分に反映させるための別の制度(寄与分・特別寄与料)を使う必要があります。何もしなければ、法定相続分どおりに分けるのが原則です。
寄与分が認められる要件
寄与分は、共同相続人の中に、被相続人(亡くなった親)の療養看護その他の方法により、財産の維持または増加について「特別の寄与」をした人がいる場合に認められる制度です(民法904条の2)。
ポイントは「特別の寄与」という言葉です。親子として通常期待される程度の世話(たまに様子を見に行く、電話で声をかけるなど)は、ここでいう特別の寄与にはあたりません。実務上、次のような要素を総合的に見て判断されます。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 無償性 | 報酬をもらわずに介護していたこと(少額の生活費援助程度は無償性を否定しない場合が多い) |
| 継続性 | ある程度長期間(目安として1年以上)続けていたこと |
| 専従性 | 片手間ではなく、相当な負担・拘束を伴っていたこと |
| 因果関係 | その介護によって、本来かかるはずだった介護費用の支出を免れるなど、財産の維持・増加につながったこと |
要介護度が低く、日常生活にほとんど支障がない親に付き添っていた程度では、寄与分が認められにくい傾向があります。逆に、要介護2〜3以上で、本来なら有料の介護サービスやヘルパーを利用する必要があった状況を、相続人が無償で代わりに担っていた場合は、認められやすくなります。
寄与分の金額に決まった計算式はありませんが、実務では「介護報酬の基準額 × 介護日数 × 裁量割合(0.5〜0.8程度)」のような方法で目安を算出することがあります。金額の算定は専門的な判断が必要なため、家庭裁判所の調停や弁護士への相談で具体的に詰めていくのが現実的です。
相続人でない親族には「特別寄与料」という制度がある
長男の妻など、介護を担っていたのが相続人自身ではなく、その配偶者や親族というケースも珍しくありません。相続人でない人は、そもそも寄与分の主張ができません。
この不公平を是正するため、2019年7月1日の民法改正で「特別寄与料」の制度が新設されました(民法1050条)。相続人ではない親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族のうち相続人でない人)が、無償で療養看護などを行い、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合、相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求できます。
特別寄与料には申立期限があります 家庭裁判所への申立ては、特別寄与者が相続開始および相続人を知った時から6か月以内、かつ相続開始時から1年以内に行う必要があります。期限を過ぎると請求できなくなるため、早めに他の相続人と話し合いを始めることが重要です。また、令和元年7月1日より前に開始した相続には、この制度は適用されません。
話し合いがまとまらない場合|家庭裁判所の調停
1. まず相続人同士で話し合う
遺産分割協議の中で、介護の実情(頻度・期間・内容)を具体的に共有し、寄与分について合意を目指します。
2. 介護の記録を整理する
通院への付き添い記録、介護日誌、実家への交通費の領収書、要介護度の認定通知書など、介護の実態を示す資料を集めておくと、話し合いや調停で説得力が増します。
3. 協議がまとまらなければ調停を申し立てる
相続人同士では「寄与分を定める処分調停」、相続人でない親族は「特別の寄与に関する処分調停」を、家庭裁判所に申し立てることができます。
4. 調停でも決まらなければ審判へ
調停が不成立の場合は、自動的に審判手続きに移行し、裁判官が事情を総合的に考慮して結論を出します。
実家の分け方への影響
寄与分・特別寄与料が認められると、実家を含む遺産の分け方にも影響します。たとえば、介護をしていた相続人が実家を取得し、他の相続人には寄与分を差し引いた金額を代償金として支払う「代償分割」を選ぶケースがよく見られます。
実家を含めた分け方の選択肢や、代償分割・換価分割の考え方は、兄弟姉妹で実家を相続した場合の進め方でも詳しく説明しています。実際に兄弟で分けた場合の税金については、実家を兄弟で分けたときにかかる税金を確認してください。
誰に相談するか
| 内容 | 相談先 |
|---|---|
| 寄与分・特別寄与料の主張の仕方、介護記録の整理 | 弁護士 |
| 遺産分割協議書の作成、相続登記 | 司法書士 |
| 家庭裁判所への調停申立て | 弁護士(本人での申立ても可能) |
よくある質問
Q. 介護をしていた期間の生活費を親から受け取っていた場合、寄与分は認められませんか。 A. 受け取っていた金額が実費程度であれば、直ちに無償性が否定されるわけではありません。ただし、対価性の高い金額を受け取っていた場合は、寄与分の主張が難しくなることがあります。詳しくは弁護士にご相談ください。
Q. 兄弟の中で自分だけが介護していたことを、他の相続人が認めてくれません。どうすればよいですか。 A. 介護日誌、通院の付き添い記録、要介護度の認定通知書などの客観的な資料を示すことが有効です。それでも合意できない場合は、家庭裁判所の調停を利用する方法があります。
Q. 寄与分や特別寄与料を主張すると、相続手続き全体が長引きますか。 A. 話し合いで早期に合意できれば大きな遅れにはなりませんが、調停・審判に進むと数か月から1年以上かかることもあります。相続税の申告期限(10か月)や相続登記の期限(3年)にも注意しながら進める必要があります。
まとめ・次にすること
- 介護をしたという事実だけでは、法定相続分は自動的に増えない
- 相続人自身の介護には「寄与分」、相続人でない親族の介護には「特別寄与料」という別の制度がある
- 無償性・継続性など一定の要件を満たす必要があり、介護記録などの資料が重要になる
- 特別寄与料には申立期限(相続人を知った時から6か月、相続開始から1年)があるため注意が必要
- 話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停を利用できる
まずは介護の実態を示す記録を整理し、他の相続人と早めに話し合いを始めることをおすすめします。