親が住んでいた実家には、家具も、食器も、写真も、そのまま残っています。 遠方に住んでいて片付けに通えない、兄弟と予定が合わない、そもそも何から手をつければよいのか分からない。 そうした状態で、売却の話だけが先に進んでしまうことがあります。
家財が残っていることは、売却をあきらめる理由にはなりません。 ただし、進め方によって手取り額も手間も変わります。ここでは順番に整理していきます。
この記事の結論
家財が残ったままでも売却できます。ただし仲介では引渡しまでに片付けるのが原則で、そのまま売るなら買取業者を使うか、残置物の扱いを契約書に明記した現況渡しになります。
この記事で分かること
- 家財を残したまま売る3つの方法と、それぞれが向く条件
- 片付けを始める前に、必ず探しておきたい書類
- 遺品整理にかかる費用と期間の考え方
- 家財が残っていると空き家の特例が使えなくなるのか
- 業者に依頼する前に確認しておくこと
4つの進め方の比較
| 進め方 | 向く条件 | 家財の扱い | 費用の目安 | 期間の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 片付けてから仲介で売る | 時間に余裕がある/少しでも高く売りたい | 引渡しまでに全部撤去 | 遺品整理費が自己負担 | 片付け1か月+売却3〜6か月 |
| 現況のまま仲介で売る | 買主が現況を了解している/古家付き土地として売る | 契約書に明記して残したまま引渡し | 値引き交渉の材料になりやすい | 売却3〜6か月 |
| 買取業者に売る | 早く手放したい/遠方で通えない | そのままで可の会社が多い | 撤去費が査定額から差し引かれる | 数週間〜2か月 |
| 解体して土地として売る | 建物の傷みが激しい/更地のほうが売れる地域 | 解体前に撤去が必要 | 解体費+撤去費 | 解体1〜2か月+売却3〜6か月 |
費用は建物の広さ、地域、荷物の量で大きく変わります。金額の目安は後半で説明します。
最初に確認すること
売却の方法を決める前に、次の4点を確認してください。ここが決まっていないと、片付けを進めても契約に進めません。
1. 名義が誰になっているか
実家の名義が亡くなった方のままだと、そのままでは売却できません。売買契約の前に、相続人へ名義を移す相続登記が必要です。
相続登記は2024年(令和6年)4月1日から義務化されており、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請することとされています。正当な理由なく申請しないと、10万円以下の過料の対象になります。2024年4月1日より前に相続が発生していた不動産については、2027年(令和9年)3月31日までが期限です。
期限内に遺産分割の話し合いがまとまりそうにない場合は、相続人申告登記という簡易な手続きで申請義務を果たすことができます。ただしこれは「相続人が誰か」を登記所に知らせるだけの手続きで、この申告だけでは不動産を売却できません。売却するには、あらためて相続登記が必要です。
2. 相続人全員の意思が確認できているか
家財の中には、他の相続人にとって思い入れのあるものが含まれている可能性があります。 「価値のないものだと思って処分したら、あとで責められた」という行き違いは、実際によく起こります。
片付けを始める前に、少なくとも次の3点は共有しておいてください。
- 誰が片付けを担当するか
- 費用を誰がどう負担するか
- 形見として残すものがあるか(写真、着物、道具類など)
3. 家の中に何が残っているか
現地に行けるなら、部屋ごとに写真を撮っておきます。遠方で行けない場合も、片付け業者に依頼すれば見積もり時に写真を送ってもらえることがあります。
写真は、業者から相見積もりを取るときにも、相続人間で状況を共有するときにも使えます。
4. 建物がいつ建てられたか
建築時期は、あとで説明する空き家の3,000万円特別控除が使えるかどうかを左右します。1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家かどうかが分かれ目です。 登記事項証明書、固定資産税の納税通知書、建築確認済証などで確認できます。
期限に注意 空き家の特例を使う場合、売却期限は「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」です。片付けと売却には想像以上に時間がかかります。特例を使う予定があるなら、逆算して動いてください。
家財を残したまま売る3つの方法
方法1:現況のまま仲介で売る
買主が了解すれば、家財を残したまま引き渡すことは可能です。古家付き土地として、買主が自分で解体・撤去する前提で売る場合によく使われます。
ただし、「残置物あり」を口頭の了解で済ませないでください。 売買契約書に、どの範囲の家財を残すのか、撤去費用は誰が負担するのかを明記します。ここが曖昧なまま引き渡すと、あとから撤去費を請求されることがあります。
なお、この方法では価格交渉で不利になりやすい点は理解しておいてください。買主は撤去費用を見込んで価格を提示してきます。
方法2:買取業者に売る
不動産会社が直接買い取る方法です。相続した実家を扱う会社の多くは、家財が残ったままの状態でも査定に応じます。
- 片付けをしなくてよい
- 現地に何度も行かなくて済む
- 買主を探す期間が不要なため、数週間〜2か月程度で現金化できる
一方で、撤去費用や修繕費を見込んだ査定になるため、仲介で売れた場合の価格より低くなるのが一般的です。「早さと手間の少なさ」を「価格」と交換する方法だと考えてください。
遠方に住んでいて通えない、兄弟の予定が合わない、固定資産税と管理の負担を早く終わらせたい、という状況では現実的な選択肢になります。実際に現況のまま買取業者へ売却した例は、家財を残したまま実家を売却したモデルケースで紹介しています。
方法3:先に片付けてから仲介で売る
家の中が空になっていれば、内覧で家の状態を見てもらいやすくなり、買主も購入後の予定を立てやすくなります。結果として、価格・売れるまでの期間の両面で有利になりやすい方法です。
時間に余裕があり、現地に通える距離であれば、この順序が基本になります。
片付ける前に、必ず探しておくもの
片付けを業者に任せる前に、次のものが家の中にないかを確認してください。処分してしまうと、あとから取り戻せません。
特に重要な3つ
- 家の売買契約書(親がその家を買ったときのもの)
- 登記識別情報通知(権利証)
- 遺言書
なぜ売買契約書が重要か
実家を売って利益が出た場合、譲渡所得税がかかります。このとき、親がその家をいくらで買ったかを示す取得費を差し引けます。
ところが、購入当時の売買契約書が見つからないと、取得費を証明できません。その場合、売却価格の5%を取得費とみなして計算することになり、課税対象が大きくなって税負担が重くなります。
古い書類なので、押し入れ、仏壇の引き出し、金庫、通帳と一緒の場所などに保管されていることが多いものです。片付けの前に必ず探してください。
その他に確認したいもの
- 実印、印鑑登録カード、マイナンバーカード
- 預金通帳、キャッシュカード、貸金庫の鍵
- 生命保険の証券、共済証書
- 有価証券、出資証券
- 年金手帳、健康保険証
- 固定資産税の納税通知書
- 賃貸借契約書(土地や駐車場を貸している場合)
- 現金(タンス預金)、貴金属、骨董品
仏壇・神棚・位牌の扱い
仏壇や位牌は、法律上は通常の相続財産とは別に扱われ、祭祀を引き継ぐ方が承継します。処分の前に、誰が引き継ぐのかを相続人間で確認してください。
宗派によっては、仏壇を移動・処分する前に閉眼供養(魂抜き)を行う習慣があります。菩提寺がある場合は、片付けの日程を決める前に相談しておくと落ち着いて進められます。遺品整理業者の中には、供養の手配まで対応する会社もあります。仏壇・お墓の整理の流れは、実家の仏壇・お墓の整理で詳しく解説しています。
進め方の手順
ステップ1 名義と相続人を確認する
登記事項証明書を取得し、名義人を確認します。相続登記が済んでいなければ、司法書士に相談します。
(必要なもの:登記事項証明書、戸籍関係書類/目安:1〜3か月)
ステップ2 家の中を確認し、重要書類と貴重品を回収する
前の章で挙げたものを探します。遠方の場合、この1回だけは現地に行く価値があります。
(目安:1〜2日)
ステップ3 仏壇・形見の扱いを決める
相続人間で共有し、必要なら供養の手配をします。
(目安:2週間〜1か月)
ステップ4 売却の方法を決める
片付けてから仲介で売るか、現況のまま売るか、買取にするかを決めます。この段階で不動産会社に相談すると、「この状態なら片付けずに売ったほうがよい」といった判断材料が得られます。
(目安:2週間〜1か月)
ステップ5 見積もりを取る
片付けを依頼する場合は、必ず複数社から見積もりを取ります。見積書の内訳(人件費、車両費、処分費、追加料金の条件)を確認します。
(目安:2週間)
ステップ6 契約書に残置物の扱いを明記する
残したまま引き渡す場合は、範囲と費用負担を契約書に記載します。
(目安:売買契約時)
費用と期間
遺品整理・家財撤去の費用
費用は、間取り、荷物の量、作業人数、エレベーターの有無、道路の広さ(トラックを停められるか)で変わります。公的な統計はありませんが、事業者が公表している料金表では、おおむね次の範囲が示されています。
| 間取り | 費用の目安 | 作業時間の目安 |
|---|---|---|
| 1R・1K | 3万〜10万円 | 半日 |
| 1LDK・2DK | 7万〜20万円 | 半日〜1日 |
| 2LDK・3DK | 12万〜30万円 | 1日 |
| 3LDK・4DK | 17万〜50万円 | 1〜2日 |
| 4LDK以上・戸建て | 22万〜60万円以上 | 2日〜 |
これはあくまで目安です。 実際の金額は現地を見なければ決まりません。必ず2〜3社から見積もりを取り、内訳を比較してください。
なお、買取可能な家具・家電・骨董品がある場合、その分が費用から差し引かれることがあります。逆に、庭木、物置、ピアノ、金庫、エアコンなどは追加費用の対象になりやすい項目です。
全体の期間
- 相続登記:1〜3か月(書類収集を含む)
- 片付け:見積もりから作業完了まで2週間〜1か月
- 仲介での売却:3〜6か月(買主が見つかるまでの期間による)
- 買取での売却:数週間〜2か月
片付けてから仲介で売る場合、相続発生から引渡しまで半年から1年かかることは珍しくありません。
家財が残っていると「空き家の3,000万円特別控除」は使えない?
相続した実家を売るときに使える可能性がある税制上の特例として、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特別控除があります。要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円(相続人が3人以上の場合は2,000万円)を差し引けます。
主な要件は次のとおりです(2026年8月3日時点、国税庁タックスアンサーNo.3306より)。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 建築時期 | 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋 |
| 建物の種類 | 区分所有建物(マンション)でないこと |
| 相続後の使用 | 相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住の用に供されていないこと |
| 売却期限 | 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで |
| 譲渡対価 | 1億円以下 |
| 建物の状態 | 耐震基準に適合するようリフォームして売る、または取り壊して土地として売る |
| 控除額 | 最高3,000万円(相続人が3人以上の場合は2,000万円) |
| 適用期間 | 2016年4月1日から2027年(令和9年)12月31日までの譲渡 |
要件を見ると、「家財が残っていること」そのものは挙げられていません。 求められているのは、相続後にその家を事業・貸付け・居住に使っていないことです。家財がそのまま置かれている状態は、通常この要件に反するものではありません。
ただし、実務上は次の点に注意が必要です。
- 取り壊して土地として売る場合は、当然ながら解体前に家財を撤去する必要があります
- 耐震リフォームをして売る場合も、工事のために家財を出すことになります
- 2024年1月1日以降の譲渡については、売却後に買主が耐震改修または取り壊しを行う場合でも適用できるようになりました(譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに行われた場合)
税務の判断は個別に確認してください 特例が使えるかどうかは、建物の状況や相続の経緯によって判断が分かれます。この記事は制度の概要をまとめたもので、個別の適用可否を判断するものではありません。売却の前に、税務署または税理士にご確認ください。
失敗例と注意点
貴重品ごと処分してしまった
もっとも多い後悔です。特に売買契約書と権利証は、なくすと手続きと税負担の両面で影響します。作業当日に立ち会えない場合は、「書類・現金・印鑑類は処分せず、まとめて保管する」ことを業者に文書で伝えておいてください。
許可を持たない業者に依頼してしまった
家庭から出る不用品は一般廃棄物にあたります。業者が自ら収集・運搬するには、市区町村の一般廃棄物収集運搬業の許可が必要です。この許可がない業者に依頼すると、不法投棄され、依頼した側が責任を問われる可能性があります。
依頼前に、次を確認してください。
- 一般廃棄物収集運搬業の許可があるか(または許可業者に委託しているか)
- 買取を行う場合、古物商許可があるか
- 見積書に会社名、所在地、内訳が記載されているか
許可業者の一覧は、実家がある市区町村の廃棄物担当課で確認できます。
見積もり後に追加料金を請求された
「トラック1台〇万円」のような表示だけで契約すると、積みきれなかった分が追加になることがあります。見積書に、総額と、追加料金が発生する条件を明記してもらってください。
兄弟に相談せずに処分した
金額の問題ではなく、感情の問題として残ります。作業前に写真を共有し、「これは残す/処分する」を一度確認するだけで防げます。
「急いで売らないと損をする」と言われた
期限がある手続き(相続登記、相続税の申告、空き家特例)は確かにありますが、いずれも数か月から数年の幅があります。その日のうちに判断を迫るような案内には、応じる必要はありません。
誰に相談するか
| 相談先 | 対応してもらえること |
|---|---|
| 不動産会社 | 売却方法の選択、査定、片付けずに売れるかの判断 |
| 遺品整理業者 | 家財の撤去、買取、供養の手配、清掃 |
| 司法書士 | 相続登記、相続人の確定、必要書類の収集 |
| 税理士 | 譲渡所得税の試算、空き家特例が使えるかの判断 |
| 市区町村の廃棄物担当課 | 許可業者の確認、粗大ごみの出し方 |
順番としては、まず不動産会社に「この状態で売れるか」を聞くのが効率的です。片付けが不要と分かれば、遺品整理の費用そのものが発生しません。
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よくある質問
Q. 家財を残したまま売ると、いくらくらい安くなりますか。 A. 一律の相場はありません。買主または買取業者は撤去費用を見込んで価格を出すため、撤去にかかる金額が目安になります。片付けた場合と現況のままの場合の両方で査定を取ると、差額を比較できます。
Q. 遠方に住んでいて現地に行けません。片付けを任せられますか。 A. 立ち会いなしで作業する業者もあります。ただし、重要書類と貴重品の確認だけは、可能であれば一度現地で行うことをおすすめします。難しい場合は、作業前に室内を撮影してもらい、確認してから進める方法があります。
Q. 相続登記が終わっていませんが、先に片付けを始めてもよいですか。 A. 片付け自体は登記と別に進められます。ただし、相続人の間で分け方が決まっていない段階で処分すると、あとでトラブルになることがあります。相続人全員に確認してから進めてください。
Q. 仏壇はどう処分すればよいですか。 A. 誰が引き継ぐかを先に決めてください。引き継ぐ人がいない場合、宗派の習慣に応じて閉眼供養を行ったうえで処分するのが一般的です。菩提寺、仏具店、供養に対応する遺品整理業者が窓口になります。
Q. 家財を処分する費用は、相続財産から出せますか。 A. 相続人の間で合意があれば、遺産分割の中で費用の負担を調整することは可能です。ただし相続税の計算上、家財の処分費用を債務として差し引けるかは別の判断になります。相続税の申告が必要な場合は、税理士に確認してください。
まとめ・次にすること
- 家財が残っていても、実家は売却できます
- 仲介で売るなら引渡しまでの撤去が原則。そのまま売るなら買取業者か、契約書に残置物の扱いを明記した現況渡しになります
- 片付けの前に、売買契約書・権利証・遺言書を必ず探してください
- 空き家の特例は、家財の有無ではなく「相続後に事業・貸付け・居住に使っていないこと」が要件です。ただし取り壊して売る場合は撤去が必要です
- 片付け業者は、許可の有無と見積もりの内訳を確認し、複数社から取ってください
次にすることは、「この状態のまま売れるかどうか」を不動産会社に聞くことです。 片付けが不要と分かれば、時間も費用も使わずに済みます。片付けが必要と分かれば、そこから見積もりを取れば間に合います。
片付けと売却のどちらを先に進めるか迷う場合は、相続後90日チェックリストで、他にやるべきことと合わせて優先順位を整理できます。