このページについて 以下は、複数のよくある相談内容をもとに編集部が再構成した架空の設例です。実際にあった相談事例ではありません。登場する人物・地名は仮のものであり、金額・期間は状況によって大きく異なります。
このモデルケースの結論
一人暮らしの母が亡くなったあと、昭和50年築の実家を兄妹2人で相続し、建物を解体して更地で売却したモデルケースです。建築時期と母の一人暮らしを書類で確認し、市役所で被相続人居住用家屋等確認書の交付を受けて確定申告をしたことで、空き家の3,000万円特別控除を適用し、兄妹それぞれの譲渡所得税をゼロにできました。
経過(時系列)
相続登記と遺産分割(相続後3か月目)
母が亡くなり、兄妹で話し合って実家を2分の1ずつの共有で相続することにした。どちらも実家に戻る予定はなく、「いずれ売って半分ずつ分ける」ことで合意し、司法書士に相続登記を依頼した。
不動産会社に相談し、特例の存在を知る(4か月目)
地元の不動産会社に査定を依頼したところ、「昭和56年5月以前の建物で、お母さまが一人で住んでいたなら、空き家の3,000万円特別控除が使えるかもしれない」と言われた。売却の前に要件を確認しておくよう勧められた。
要件を1つずつ確認する(4〜5か月目)
固定資産税の課税明細書と登記事項証明書で、建物が昭和50年に建てられたことを確認した。母の住民票の除票で、亡くなる直前まで実家に住所があり、同居人がいなかったことも確かめた。相続してから誰も住まず、貸してもいないこと、売却価格が1億円以下になる見込みであることも確認し、最後に税務署の電話相談で自分たちのケースが対象になりそうかを確かめた。
耐震リフォームか解体かを決める(6か月目)
特例を使うには、耐震基準を満たすようにするか、建物を取り壊すかのどちらかが必要だった。建物は傷みが進んでおり、耐震改修の見積もりは解体費用を大きく上回ったため、解体して更地で売ることにした。解体業者は3社から見積もりを取って選んだ。
解体と建物の滅失登記(7〜8か月目)
家財の片付けを済ませたうえで解体工事を行い、工事後に建物の滅失登記を申請した。解体前の建物の写真や、解体工事の契約書・領収書は、後の手続きに使うため兄が保管した。
更地として売り出し、売買契約(9〜13か月目)
仲介で売り出し、約4か月で買主が決まった。買主は兄妹と親族関係のない個人で、売却価格は2,400万円だった。
市役所で確認書の交付を受ける(14か月目)
引き渡しのあと、実家のある市役所の担当窓口に「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を申請した。母の住民票の除票、空き家だった期間の電気・水道の使用状況が分かる書類、解体前の写真、売買契約書の写しなどを求められ、兄妹それぞれの名義で確認書を受け取った。
翌年、兄妹それぞれが確定申告(翌年2〜3月)
兄妹は自分の持分(2分の1)について、それぞれ譲渡所得の確定申告を行い、確認書や登記事項証明書、売買契約書の写しなどを添付して特例を適用した。
このモデルケースのポイント
- 売り出す前に要件を確認したことで、「解体して売る」という特例に合った売り方を選べた
- 建築時期・一人暮らし・相続後に誰も使っていないことを、書類で裏付けられるようにしておいた
- 被相続人居住用家屋等確認書は市区町村が交付するもので、税務署ではなく役所での手続きになる
- 共有で相続した場合、特例の適用は相続人ごとに、自分の持分について確定申告で受ける
特例の要件そのものは、関連記事の「空き家の3,000万円特別控除は使える?適用要件と手続きをわかりやすく」で整理しています。
このケースで確認した要件
国税庁の案内に沿って、兄妹が確認した主な要件は次のとおりです。
| 要件 | このケースでの確認方法 |
|---|---|
| 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること | 登記事項証明書・固定資産税の課税明細書で建築年を確認 |
| 相続の直前に被相続人が住んでいて、ほかに住んでいた人がいないこと | 母の住民票の除票で確認 |
| 相続から売却まで、事業・貸付・居住に使っていないこと | 空き家のまま管理し、電気・水道の使用状況が分かる書類を保管 |
| 耐震基準を満たすようにするか、取り壊すこと | 建物を解体し、滅失登記をしてから更地で売却 |
| 売却代金が1億円以下であること | 売却価格2,400万円 |
| 特別の関係がある人(親子・夫婦・生計を一にする親族など)への売却でないこと | 親族関係のない個人に売却 |
| 売却の期限 | 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却 |
2024年1月1日以後の売却では、売った年の翌年2月15日までに買主が取り壊しや耐震改修を行った場合も、特例の対象になります。このケースでは自分たちで解体してから売りましたが、建物付きのまま売って買主に解体してもらう選択肢も、売買条件によっては考えられます。
また、2024年1月1日以後の売却で相続人が3人以上いる場合、1人あたりの控除額は2,000万円になります。このケースは相続人が2人だったため、1人あたり最高3,000万円でした。
税金の試算(このケースの場合)
売却価格2,400万円を兄妹で2分の1ずつ分けた場合の、1人あたりの試算です。取得費は、父が昔購入したときの資料が見つからなかったため、売却価格の5%を取得費とする方法で計算しました。
| 項目 | 1人あたりの金額(目安) |
|---|---|
| 売却価格(持分2分の1) | 1,200万円 |
| 取得費(売却価格の5%) | 60万円 |
| 譲渡費用(解体費用・仲介手数料などの2分の1) | 約140万円 |
| 譲渡所得(特例適用前) | 約1,000万円 |
| 空き家の3,000万円特別控除 | 最高3,000万円 |
| 課税される譲渡所得 | 0円 |
特例を使わなかった場合、長期譲渡所得として約1,000万円に税率(所得税・復興特別所得税・住民税の合計で約20%)がかかり、1人あたり200万円前後の税負担になる計算でした。解体費用を払ってでも、特例に合う形で売ったことが手取りに大きく影響しています。
- 上の数字は計算の流れを示すための例で、実際の税額は取得費・譲渡費用・所有期間などによって変わります
- 特例の適用を受けて税額がゼロになる場合でも、確定申告は必要です
- 空き家の3,000万円特別控除と、相続税の取得費加算の特例は併用できません。相続税を納めている場合はどちらが有利か試算が必要です
兄妹がつまずきかけた点
| つまずきかけた点 | どう乗り越えたか |
|---|---|
| 母が晩年に入院していた期間がある | 住民票は実家のままで、入院中も家財が置かれ母の生活の拠点だったことを確認。判断に迷う点は税務署に相談した |
| 空き家だったことの証明 | 電気・水道の使用量がほとんどない明細や、解約・閉栓の記録を保管しておいた |
| 解体前の写真がほとんどない | 解体業者に工事前の写真を依頼しておき、確認書の申請に使えた |
| 確定申告が兄妹別々になる | 同じ税理士にまとめて依頼し、書類をそろえて申告した |
確認書の申請に必要な書類は、市区町村や売り方(建物付きか、解体後か)によって異なります。解体してしまうと後から写真を撮れないため、解体前に窓口で必要書類を確認しておくと安心です。
誰に相談したか
| 内容 | 相談先 |
|---|---|
| 相続登記・建物の滅失登記 | 司法書士、土地家屋調査士 |
| 特例の対象になるかの確認 | 税務署の電話相談 |
| 被相続人居住用家屋等確認書の交付 | 実家のある市役所の担当窓口 |
| 解体工事 | 解体業者(3社で見積もり比較) |
| 売却 | 地元の不動産会社(仲介) |
| 確定申告 | 税理士 |
まとめ・次にすること
- 空き家の3,000万円特別控除は、建築時期・一人暮らし・相続後の利用状況・売却期限などの要件を満たせば、相続した実家の譲渡所得から最高3,000万円を控除できる
- 売り出す前に要件を確認しておくと、解体するか・耐震改修するかなど、特例に合った売り方を選べる
- 市区町村の被相続人居住用家屋等確認書が必要で、解体前の写真や空き家だった記録が求められることがある
- 共有で相続した場合も、相続人それぞれが確定申告で特例を適用する
- 実際に使えるかどうか・取得費加算とどちらが有利かは、税務署や税理士に確認する