親が亡くなると、葬儀の準備、親族への連絡、そして誰も住まなくなった実家のことが一度に押し寄せてきます。「実家をどうするか」はすぐに決めなくてよい問題ですが、年金と健康保険の手続きには10日・14日といった短い期限があり、後回しにすると年金の返還が必要になったり、受け取れるはずのお金を請求し忘れたりすることがあります。
この記事では、実家の整理と同じ時期に進めることになる年金・健康保険まわりの手続きを、期限の短い順に整理します。
この記事の結論
親が年金を受け取っていた場合は、年金受給権者死亡届(厚生年金は死亡から10日以内、国民年金は14日以内。マイナンバーが日本年金機構に収録されていれば原則省略可)と、まだ受け取っていない年金を請求する未支給年金の請求を行います。健康保険は、国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険の資格喪失の届出が死亡から14日以内です。葬祭費・埋葬料や高額療養費のように、遺族が請求しないと受け取れないお金もあるため、実家の片付けや相続の話し合いと並行して、期限の短いものから順に進めます。
この記事で分かること
- 親の死亡後、年金・健康保険で必要になる手続きと期限
- 「届け出なくても止まる手続き」と「請求しないと受け取れないお金」の違い
- 実家の整理(片付け・郵便物・口座)と、どの順番で並行させるか
- 窓口ごとにまとめて回るための段取り
なぜ年金・健康保険の手続きを先に済ませるのか
相続に関する手続きの多くは、相続放棄の3か月、相続税申告の10か月、相続登記の3年と、ある程度の時間的な余裕があります(詳しくは「実家を相続した後の期限一覧」で整理しています)。
一方、年金と健康保険の手続きは、死亡から10日〜14日という短い期限が設定されているものがあります。期限を過ぎても罰則を受けるケースは多くありませんが、次のような実務上の困りごとにつながります。
- 死亡後も年金の振込が続き、あとから返還の手続きが必要になる
- 親の口座が凍結されたあとに年金が振り込まれ、戻す手続きが複雑になる
- 葬祭費や未支給年金など、請求しなければ受け取れないお金を時効で失う
実家の片付けや売却の検討は、これらの手続きが一段落してからでも遅くありません。
期限の短い順に見る手続き一覧
| 手続き | 期限の目安 | 主な窓口 | 対象になる人 |
|---|---|---|---|
| 年金受給権者死亡届(厚生年金) | 死亡から10日以内 | 年金事務所・街角の年金相談センター | 厚生年金を受け取っていた親 |
| 年金受給権者死亡届(国民年金) | 死亡から14日以内 | 市区町村窓口・年金事務所 | 国民年金のみを受け取っていた親 |
| 国民健康保険の資格喪失届 | 死亡から14日以内 | 市区町村窓口 | 国民健康保険に加入していた親(おおむね74歳まで) |
| 後期高齢者医療の資格喪失届 | 死亡から14日以内 | 市区町村窓口 | 75歳以上の親 |
| 介護保険の資格喪失届 | 死亡から14日以内 | 市区町村窓口 | 65歳以上の親、要介護認定を受けていた親 |
| 世帯主変更届 | 死亡から14日以内 | 市区町村窓口 | 親が世帯主で、世帯に2人以上が残る場合 |
| 未支給年金の請求 | 5年(時効) | 年金事務所 | 生計を同じくしていた遺族 |
| 葬祭費・埋葬料の請求 | 2年(時効) | 市区町村窓口・健康保険組合など | 葬儀を行った人・埋葬を行った人 |
| 高額療養費の請求 | 2年(時効) | 市区町村窓口・健康保険組合など | 亡くなる前の医療費が高額だった場合の相続人 |
| 遺族年金の請求 | 5年(時効) | 年金事務所 | 要件を満たす配偶者・子など |
※期限・金額・対象者は加入していた制度や自治体によって異なります。実際の手続きは各窓口の案内を確認してください。
年金の手続き
年金受給権者死亡届
年金を受け取っていた親が亡くなったときは、年金の支払いを止めるための「年金受給権者死亡届」を提出します。期限は、厚生年金が死亡から10日以内、国民年金が14日以内です。
ただし、日本年金機構の案内では、親のマイナンバーが日本年金機構に収録されている場合、この死亡届は原則として省略できるとされています。役所に戸籍法の死亡届を出すと、その情報が連携されるためです。自分の親が該当するか分からない場合は、年金事務所に問い合わせると確認できます。
死亡後に振り込まれた年金は返還が必要です 手続きが遅れて、亡くなった月の翌月分以降の年金が振り込まれた場合は、あとで返還することになります。親の口座が凍結されていると引き落としで戻すことができず、相続人が別途振り込むなどの手間がかかります。
未支給年金の請求
年金は後払いのしくみのため、亡くなった時点で「本来受け取れるのに、まだ受け取っていない年金」が必ずといってよいほど発生します。これを「未支給年金」といい、生計を同じくしていた遺族が請求できます。
請求できる遺族には順位があり、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、それ以外の3親等内の親族の順です。日本年金機構の様式は、死亡届と未支給年金の請求書が一体になっているため、死亡届が省略できる場合でも、未支給年金の請求書は提出する必要があります。時効は5年で、提出から受け取りまでおおむね3か月ほどかかるとされています。
実家で一人暮らしだった親の場合 別々に暮らしていた子でも、仕送りをしていた、定期的に行き来して生活を支えていたなど「生計を同じくしていた」と認められれば請求できる場合があります。該当するかどうかは、年金事務所で状況を伝えて確認してください。
遺族年金の請求
亡くなった親が年金に加入していた(または受け取っていた)場合、残された配偶者などが遺族年金を受け取れることがあります。遺族基礎年金は主に子のいる配偶者または子、遺族厚生年金は配偶者・子・父母などが対象で、それぞれ細かな要件があります。
両親の一方が亡くなり、もう一方が実家に住み続けるケースでは、遺族年金の額が今後の生活費や実家の維持費の見通しに直結します。実家を残すか手放すかを考える前に、年金事務所で受給の可否と見込み額を確認しておくと、話し合いの材料になります。
健康保険・介護保険の手続き
資格喪失の届出と保険証の返却
親が国民健康保険または後期高齢者医療に加入していた場合は、市区町村の窓口で資格喪失の届出を行い、保険証や資格確認書などを返却します。期限は死亡から14日以内です。65歳以上の方は介護保険の資格喪失の届出も同じ窓口でまとめて行えることが多いため、一度に済ませるのが効率的です。
親が会社員として勤めていて健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)に加入していた場合は、勤務先が資格喪失の手続きを行います。親の扶養に入っていた家族は、その健康保険の資格も失うため、国民健康保険への加入などを14日以内に行う必要があります。
葬祭費・埋葬料の請求
国民健康保険や後期高齢者医療の加入者が亡くなった場合、葬儀を行った人に「葬祭費」が支給されます。金額は自治体によって異なります。会社の健康保険の場合は「埋葬料」として支給されます。
いずれも時効は2年ですが、葬儀の領収書や会葬礼状など、葬儀を行ったことが分かる書類が必要になります。実家の片付けで書類を処分してしまう前に、手元に保管しておきましょう。
高額療養費の請求
亡くなる前に入院していた場合など、医療費の自己負担額が上限を超えていれば、その分が高額療養費として払い戻されます。本人が亡くなっている場合は相続人が請求します。後日、自治体から申請の案内が実家あてに届くことがあるため、実家の郵便物を定期的に確認しておくことが大切です。
実家の整理とどう並行させるか
年金・健康保険の手続きと、実家まわりで必要になる作業は、同じ時期に重なります。次の順番で進めると、窓口に行く回数と見落としを減らせます。
1. 死亡届の提出と同時に、市区町村窓口の手続きをまとめて済ませる
国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険の資格喪失、世帯主変更、葬祭費の請求は、同じ役所の窓口で扱っていることが多い手続きです。事前に役所のホームページで「おくやみ窓口」の有無を確認し、必要書類を揃えて行くと1回で済むこともあります。
(目安:死亡から14日以内)
2. 実家で年金証書・保険証・通帳を探す
年金証書(基礎年金番号・年金コードが分かるもの)、保険証、通帳、葬儀の領収書は、年金・健康保険の手続きで必要になります。実家の片付けを始める前に、まずこれらの書類を確保します。
(目安:葬儀後、最初に実家に入るとき)
3. 年金事務所で未支給年金と遺族年金をまとめて相談する
年金事務所は予約制のところが多いため、早めに予約を入れます。未支給年金と遺族年金の相談は同じ窓口で一度に行えます。
(目安:死亡から1か月以内)
4. 金融機関・公共料金など、実家に関わる契約を整理する
年金の振込先だった口座は、金融機関に死亡を伝えた時点で凍結されます。実家の電気・ガス・水道の引き落とし口座になっていないかを確認し、名義変更や支払い方法の変更を進めます。
(目安:死亡から1〜2か月)
5. 相続全体の期限(3か月・4か月・10か月)に移る
年金・健康保険の手続きが一段落したら、相続放棄の判断や遺産分割の話し合い、実家をどうするかの検討に進みます。
(目安:死亡から3か月以内に方向性を整理)
親の年金の振込口座に、実家の固定資産税や公共料金の引き落としが集まっていることはよくあります。口座が凍結されると引き落としができなくなり、滞納の通知が実家に届くことがあるため、郵便物の確認とあわせて早めに支払い方法を切り替えてください。
誰に相談するか
| 確認したいこと | 相談先 |
|---|---|
| 年金受給権者死亡届・未支給年金・遺族年金 | 年金事務所、街角の年金相談センター |
| 国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険・葬祭費 | 市区町村の担当窓口 |
| 会社の健康保険・埋葬料 | 勤務先、加入していた健康保険組合・協会けんぽ |
| 相続手続き全般の進め方・書類集め | 司法書士、相続手続きのサポートサービス |
年金や健康保険の個別の受給要件・金額は、加入歴や家族構成によって変わります。最終的な判断は、各窓口や専門家に確認してください。
よくある質問
Q. 年金受給権者死亡届を出し忘れていました。どうすればよいですか。 A. 気づいた時点で、年金事務所に連絡して手続きをしてください。亡くなった月の翌月分以降の年金が振り込まれていた場合は、返還の案内があります。マイナンバーが収録されていて死亡届が省略されている場合もあるため、まずは状況を問い合わせるのが確実です。
Q. 未支給年金は相続財産として分ける必要がありますか。 A. 未支給年金は、法律で定められた順位の遺族が自分の権利として受け取るもので、一般的には遺産分割の対象となる相続財産とは区別されます。ただし、税金の扱いを含めて判断が必要な場面もあるため、心配な場合は税理士などの専門家に確認してください。
Q. 親が実家で一人暮らしをしていた場合、世帯主変更届は必要ですか。 A. 世帯に残る人がいない場合(または1人だけの場合)は、世帯主変更届は原則として不要です。死亡届の提出により、住民票の記載は役所側で処理されます。
Q. 役所の手続きのために、平日に何回休む必要がありますか。 A. おくやみ窓口がある自治体では、市区町村の手続きを1回にまとめられることがあります。年金事務所、法務局、金融機関を含めた回り方は「実家の相続手続き、平日に何日休みが必要か」で整理しています。
まとめ・次にすること
- 年金受給権者死亡届は、厚生年金が10日以内、国民年金が14日以内(マイナンバー収録済みなら原則省略可)
- 未支給年金の請求書は、死亡届が省略できる場合でも提出が必要
- 国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険の資格喪失は死亡から14日以内
- 葬祭費・埋葬料・高額療養費は、請求しないと受け取れない(時効は2年)
- 実家の片付けを始める前に、年金証書・保険証・通帳・葬儀の領収書を確保する
次にすることは、実家で年金証書と保険証を探し、市区町村の窓口に行く日を決めることです。ここが済めば、相続の話し合いや実家をどうするかの検討に落ち着いて進めます。
何から手をつけるか整理したい場合は、相続後90日チェックリストもあわせてご覧ください。