このページについて 以下は、複数のよくある相談内容をもとに編集部が再構成した架空の設例です。実際にあった相談事例ではありません。登場する人物・地名は仮のものであり、金額・期間は制度の一般的な運用をもとにした目安であり、個別の状況によって異なります。
このモデルケースの結論
相続人全員が実家の相続放棄をしたものの、実家に住んでいた長男が「現に占有している」ことを理由に保存義務(旧・管理義務)を負い続け、台風後の様子確認や庭木の苦情対応に追われたため、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てたモデルケースです。予納金約100万円を納め、清算人に実家を引き渡した時点で保存義務が終了しました。
経過(時系列)
相続放棄の手続き(1〜3か月目)
父の死亡後、預貯金より借入金のほうが多いことが分かり、長男・妹とも家庭裁判所に相続放棄を申述した。相続の開始を知った時から3か月以内という期限に間に合わせるため、早い段階で司法書士に相談した。
保存義務が残っていることに気づく(3〜4か月目)
相続放棄をすれば実家と一切関わらずに済むと思っていたが、司法書士から、実家に隣接する土地に住み、実家の鍵も管理していた長男は「相続放棄時に現に占有していた」とみなされ、次の管理者(清算人)に引き渡すまで保存義務を負うことを説明された。
近隣からの連絡が続く(4〜8か月目)
台風の翌日に「瓦が落ちそうだ」と近隣住民から連絡が入ったほか、庭木が越境して伸びていることへの苦情も寄せられた。義務の範囲は「保存」にとどまり、修繕や庭木の伐採まで積極的に行う必要はないと分かっていても、都度対応に追われる状態が続いた。
相続財産清算人の選任を申し立て(8〜9か月目)
保存義務を早く終わらせたいと考え、司法書士に相談したうえで、保存義務を負う立場の利害関係人として家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てた。申立てには、被相続人の出生から死亡までの戸籍一式、相続放棄の申述受理証明書、不動産登記事項証明書などを準備した。
予納金の納付・官報公告(9〜10か月目)
裁判所から、清算人の報酬や手続費用に充てるための予納金として約100万円の納付を求められ、納付した。清算人が選任されると、相続人を捜索するための官報公告が6か月以上の期間で行われた。
清算人への引き渡し・保存義務の終了(10か月目以降)
選任された清算人(司法書士)と実家の状態を確認し、鍵を引き渡した。この時点で長男の保存義務は終了し、以後の管理・処分は清算人が行うことになった。
このモデルケースのポイント
- 相続放棄をしても、放棄時に不動産を「現に占有」していた人は、次の管理者に引き渡すまで保存義務を負う
- 保存義務の内容は「保存」にとどまり、修繕・改良・庭木の伐採などを積極的に行う義務はない
- 義務を早く終わらせたい場合、保存義務を負う相続放棄者自身が利害関係人として申立てを行える場合がある(個別の判断は司法書士・弁護士に確認が必要)
- 予納金は財産の状況によって金額が変わり、清算後に残額があれば返還される
保存義務が発生する要件や範囲の詳しい解説は相続放棄しても実家の管理義務が残るケースで、相続放棄そのものの進め方は実家を含む相続放棄の進め方で取り上げています。
費用・期間の目安(このケースの場合)
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 相続財産清算人選任の申立費用 | 収入印紙800円、連絡用の郵便切手(裁判所により異なる)、官報公告料5,582円 |
| 予納金 | 財産の内容・清算人の報酬見込みにより変動(数十万円〜100万円程度になることが多い) |
| 官報公告の期間 | 6か月以上(相続人捜索のため) |
| 申立てから引き渡しまでの期間 | 半年〜1年程度(このケースでは申立てから約2か月で清算人が選任され、その後の官報公告・清算手続きを経て完了) |
予納金は審理の中で示される金額であり、事前に正確な額を知ることはできません。財産に見合わない高額な予納金を求められる場合もあるため、申立て前に司法書士や弁護士へ相談し、見通しを確認しておくことをおすすめします。
保存義務を放置した場合のリスク
このケースのように早めに清算人の選任を申し立てず、保存義務を負ったまま放置すると、次のような負担が続く可能性があります。
| 放置した場合に起こりうること | 内容 |
|---|---|
| 近隣トラブルの窓口になり続ける | 「相続放棄をした」ことは近隣には分からず、事実上の管理者として連絡を受け続けることが多い |
| 倒壊・落下等で損害が生じた場合の責任 | 保存義務を怠ったとみなされると、損害賠償責任を問われる可能性がある |
| 空き家対策特別措置法上の指導の対象になる場合 | 自治体から適切な管理を求める助言・指導の連絡が来ることがある |
保存義務は「相続放棄をすれば即座にすべての関わりがなくなる」というものではない点に注意が必要です。実家に住んでいた、または鍵を管理していたなど「現に占有」していた人ほど、この義務が残りやすくなります。
まとめ・次にすること
- 相続放棄をしても、放棄時に実家を現に占有していた人は、次の管理者(清算人)に引き渡すまで保存義務を負う
- 保存義務の内容は「現状維持」にとどまり、修繕や庭木の伐採まで積極的に行う必要はない
- 義務を早く終わらせたい場合、保存義務を負う相続放棄者自身が利害関係人として申立てを行える場合がある
- 予納金は財産の状況により変動するため、申立て前に司法書士・弁護士へ相談し見通しを確認しておくとよい